判例・事例

改正障害者雇用促進法の施行(平成28年4月1日)と実務上の問題(2)

2016年2月7日 その他の事例・判例


(2)改正法は、募集・採用時と採用後の合理的配慮義務を別々に規定しているが、採用後の合理的配慮の提供が困難であると見込まれる場合にも、募集・採用時の合理的配慮の提供は義務なのか。例えば、障害を有する者が別室受験を申し出た場合に、受験のみ別室とする配慮は可能と思われるが、その受験者が採用後に他の社員と同室で就業することは困難であることが予想される。

この場合、別室受験であることが就業上の支障を生じるおそれがあるとして採用を拒否することは、実質的に障害者であることを理由とする排除となるので、法違反となるとされている。かといって、採用後に労働者が別室での一人勤務を強く希望し、会社にとりそれが過重な負担となるため、結局退職せざるを得ないのでは、双方にとって不幸なことだろう。

改正法に基づく「合理的配慮指針」(厚生労働省告示第117号)では、障害者から合理配慮の申出があった場合には、どのような措置を講じるかについて話し合いを行うよう求めており、採用後に一人別室の勤務が可能な職場でない場合には、別室以外の受験方法を検討、提案するのが望ましい。

(3)労働者が、自ら障害者であることを申し出ない場合(クローズ就労)に、事業主が障害者であることを把握していないために本来必要な措置が講じられない可能性があるが、その場合に事業主としての責任は問われるのか。(例えば、障害を持った労働者が重大な失敗をした場合に行った懲戒処分、解雇の有効性。あるいは、障害を悪化させた場合の安全配慮義務。)

上記「合理的配慮指針」では、「採用後の合理的配慮について、事業主が必要な注意を払ってもその雇用する労働者が障害者であることを知り得なかった場合には、合理的配慮の提供義務違反を問われない」とされている。

しかし、注意を払えば障害者であることを知り得たにもかかわらず、特に確認をすることなくそのまま就労させたために事故を発生させた場合には、事業主の安全配慮義務が問題とならざるを得ないだろう。クロース就労の場合は必要な注意は限定されるとする見解もあるようだが、使用者としてはリスクを回避したい。

事業主としては、

①障害を持つ労働者からの相談に応じる相談窓口や担当者を決め、全従業員に周知しておくこと、その際、相談を理由とする不利益取扱いは禁止されていることやプライバシーには配慮することを周知すること、また、

②もし、就業の状況に違和感を感じるような労働者がいる場合には、プライバシーに配慮しながら適切な形で障害の有無を確認し、障害者であることを把握したときは、合理的な配慮の内容について話し合いをすること

が求められる。

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