判例・事例

退職金の減額・不支給について

2012年4月28日 解雇に関する事例・判例


1 はじめに

 多くの会社では、就業規則に、懲戒解雇の場合には退職金の全部または一部を支給しない旨の、いわゆる「退職金の減額・不支給条項」を設けています。しかし、懲戒解雇だからといって、常に退職金の減額や不支給が認められるわけではありません。

2 退職金の2つの性格

 退職金には、次の2つの性格があるといわれています。

(1)賃金後払的性格

 まず、わが国では、多くの場合、若いうちは適正な賃金水準よりも低めの賃金に抑え、勤続年数が増えるに従って適正な賃金となっていくという賃金体系を採用していることから、退職時にそれまでの賃金の不足分を清算する必要があります。そのため、退職金は、いわば賃金後払的性格を持つといえます。

(2)功労報償的性格

 また、退職金は、在職中の特別な功労に報いるという、功労報償的性格も持つといわれています。

3 そこから導かれる結論

 退職金が功労報償的性格を持つことからすれば、退職者に懲戒解雇をされるような(=功労とは逆のベクトルの)事情がある以上、退職金の減額・不支給条項にも一応の合理性が認められます。

 しかし、他方で、退職金が賃金後払的性格も持つことからすれば、懲戒解雇であるからといって、常に減額・不支給が認められるというわけにもいきません。

 そのため、結局、退職金の減額・不支給が認められるのは、退職者に、その在職中の労働の価値を抹消(不支給の場合)または減殺(減額の場合)してしまうほどの著しく信義に反する行為がある場合に限られます。

 また、退職者にこのような著しく信義に反する行為がある場合であっても、その行為に見合った対応を行う必要があります。

 例えば、金銭の使い込み等により使用者が重大な損害を被った場合や、従業員が重大な犯罪を行ったことによって、使用者に対しても社会的に厳しい非難がされた場合等には、減額はもちろん、不支給も許される場合があるでしょう。

 他方、勤務態度の不良、業務命令違反、私生活上の犯罪のうち重大なものではない等の場合には、不支給はもちろん、減額についても慎重に判断する必要があります。

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