判例・事例

労働者に課される守秘義務・秘密保持義務について

2016年5月31日 労働条件に関する事例・判例


はじめに
今回は、レガシィ事件(東京地裁平成27年3月27日判決)をもとに、労働者に課される守秘義務・秘密保持義務について検討したいと思います。

【事案の概要】
 労働者が会社を退職する前に、同僚を誘って会社に対する残業代請求訴訟を提起することを企図して作業時間が記載された機密情報を持ち出し、退職後に元同僚らに交付したことにつき、会社が守秘義務違反として損害賠償を請求した事案です。

【裁判所の判断】
 在職中の守秘義務は信義則に基づいて当然に発生するが、労働契約の終了とともに消滅する。退職者の退職後の守秘義務の根拠としては、労働契約上の明確な根拠(秘密管理規定ないし守秘契約)が必要であるとしつつ、退職後に機密情報を不当に開示する目的で在職中に機密情報を取得することは在職中の守秘義務に違反するとして、労働者の責任を肯定しています。

【実務上の留意点】
 労働者は、労働契約の存続中は、信義則上、使用者の営業上の秘密を保持すべき義務を負っていると考えられています。一方で、労働契約の終了後については、就業規則の具体的な規定や個別的な特約によって一定の営業秘密の保持が約定されている場合には、その約定の必要性・合理性が認められる限り、元労働者には秘密保持義務が課されることになります。
 上記のレガシィ事件では、退職後の守秘義務については契約上の根拠がないため否定されましたが、退職後に機密情報を不当に開示する目的で在職中に機密情報を取得することは在職中の守秘義務に違反すると判断しており注目すべき判決です。しかし、このような立場は裁判実務上確立されているわけではありません。したがって、職務上、労働者が機密情報・営業秘密等に接する可能性がある会社では、就業規則等に退職後の守秘義務についても定めておく必要があるでしょう。
 弊所では、就業規則のチェック・変更等も承っておりますので、お気軽にご相談ください。

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