判例・事例

判例紹介~試用期間の延長は認められる?~

2022年9月5日 解雇に関する事例・判例


今回は、就業規則に定めのない試用期間の延長について、本人の同意を得ていましたが、延長する目的が認められないとされ延長は無効であると判断された判例(令和2年9月28日東京地裁判決)をご紹介します。

1 事案の概要
Yとの間で試用期間のある労働契約を締結していたXが、Yに対し、延長された試用期間中に本採用を拒否(解雇)されたところ、その延長が無効であるとともに、解雇も無効であるとして、雇用契約に基づき労働契約上の地位にあることの確認、未払賃金等の請求及び違法な退職勧奨により抑うつ状態を発症して通院を余儀なくされたなどとして、不法行為に基づく損害賠償請求を求めた事案。

~時系列~
解雇

2 判決の概要

(1)試用期間延長の有効性について

ア 裁判所の判断
◆「試用期間を延長することは,労働者を不安定な地位に置くことになるから,根拠が必要と解すべきであるが,就業規則のほか労働者の同意も上記根拠に当たると解すべきであり,就業規則の最低基準効(労働契約法12条)に反しない限り,使用者が労働者の同意を得た上で試用期間を延長することは許される。」

※最低基準効
労働契約法12条「就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については、無効とする。…」

◆「就業規則に試用期間延長の可能性及び期間が定められていない場合であっても,職務能力や適格性について調査を尽くして解約権行使を検討すべき程度の問題があるとの判断に至ったものの労働者の利益のため更に調査を尽くして職務能力や適格性を見出すことができるかを見極める必要がある場合等のやむを得ない事情があると認められる場合に,そのような調査を尽くす目的から,労働者の同意を得た上で必要最小限度の期間を設定して試用期間を延長することを就業規則が禁止しているとは解されない」

◆「やむを得ない事情があると認められる場合に調査を尽くす目的から労働者の同意を得た上で必要最小限度の期間を設定して試用期間を延長しても就業規則の最低基準効に反しない」

◆「やむを得ない事情,調査を尽くす目的,必要最小限度の期間について認められない場合,労働者の同意を得たとしても就業規則の最低基準効に反し,延長は無効になると解すべきである。」

イ 本件における検討
✓ Yが当初の試用期間中にXの職務能力や適格性について調査を尽くしていたと評価するに足りる事実を認めることはできず、1回目の延長についてやむを得ない事情があったとは認められない。
✓ Yが試用期間を繰り返し延長した目的は、主として退職勧奨に応じさせることにあったと推認される。

👉「1回目の延長は,やむを得ない事情があったとも,調査を尽くす目的があったとも,認められず,就業規則の最低基準効に反することから無効であり,1回目の延長が有効であることを前提とする2回目の延長及び3回目の延長も無効であるから,本件雇用契約は,試用期間の満了日である平成30年6月30日の経過により,解約権留保のない労働契約に移行したと認められる。」

(2)解雇の有効性、退職勧奨について

ア 解雇の有効性
上記(1)イより、本件雇用契約は、平成30年6月30日の経過により、解約権留保のない労働契約に移行しているので、本件解雇は試用期間中における留保された解約権行使ではなく普通解雇として有効性が判断されました。そして、本件について解雇事由は存せず、本件解雇は無効と判断されました。

イ 退職勧奨について
Xに「精神的苦痛を与えて退職勧奨に応じさせる目的で本件会議室に一人配置して主に自習させ続けた処遇」や役員等からの「退職勧奨に係る言動は,その手段・方法が社会通念上相当と認められる範囲を逸脱しているといえ,原告の人格権を侵害する違法行為というほかなく,不法行為に当た」り、Yは,使用者責任を負うとして50万円の損害が認められました。

3 コメント
試用期間の延長は、就業規則等で規定がない場合、試用労働者の利益を考慮して、原則として認められないとされています。本判決では、やむを得ない事情があると認められる場合に、調査を尽くす目的から労働者の同意を得た上で、必要最小限度の期間を設定して試用期間を延長することは、就業規則の最低基準効に反せず有効と判断されていますが、YがXの職務能力や適格性を見極める取組の例として、面談(適切な時間間隔での面談の繰り返し)や、先輩職員との意思疎通の機会を設け、上司から随時問題点を指摘し改善の機会を与えるなどの取り組みが挙げられています。このような取り組みが、当初から行われており、それを見極めるには延長することが必要といった事情があれば、結論が変わった可能性もあるでしょう。試用期間中の解雇や延長の可否について迷われた場合には、お気軽にご相談ください。
                                               以上

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