判例・事例

賃金の控除に関するQ&A

2024年6月10日 賃金に関する事例・判例


従業員に賃金を支払う際に、「これは賃金から控除して良いのか」と迷うことはありませんか?
今回は、賃金の控除に関するQ&Aをご紹介します。また、実務において参考となる判例をご紹介します。

1 賃金の全額払いの原則
労働基準法24条1項より、

●原則:賃金はその全額を支払わなければなりません。
●例外:
①法令に別段の定めがある場合
②事業所労働者の過半数で組織する労働組合またはその過半数を代表する者との協定(労使協定)がある場合

には、賃金の一部を控除することが認められています。

2 賃金控除に関するQ&A

Q1 上記規定で例外的に控除が認められる場合とは具体的に何か?
A1 ①法令に別段の定めがある場合 → 給与所得税の源泉徴収、社会保険料の控除、労働保険料の控除等
   ②労使協定がある場合     → 物品等の購入代金、社宅利用料金、財形貯蓄金、組合費等

Q2 労使協定を締結すれば会社が一方的に賃金から控除しても良いか ?
A2 労使協定を締結することによって労働基準法24条1項違反となることはありませんが、労働者との労働契約上適法となるかは別問題です。
実際の控除が適法となるためには、別途就業規則等に控除の根拠規定を設けるか、対象となる労働者の同意が必要となります。

Q3 従業員に貸し付けた金銭を控除・相殺して良いか ?
A3 貸し付けた金銭を一方的に控除するには、労使協定の締結が必要になります。
また、下記A4のとおり控除できる額には上限があります。また、労働者の同意を得て相殺することも可能ですが、当該同意は自由な意思に基づくものであることが認められることが必要となります。

Q4 貸し付けた金銭はいくらまで賃金から控除して良いか ?
A4 民法や民事執行法の規定により、その支払期に対する賃金(給与総支給額(通勤手当を除く)から、所得税・住民税及び社会保険料等の法定控除額を差し引いた額)の4分の3(その額が33万円を超える場合は33万円)に相当する部分については、使用者側から一方的に控除(相殺)することはできません。
そのため、使用者が一方的に控除(相殺)できる上限額は4分の1までとなります。

3 コメント
賃金は労働者にとって重要な労働条件の一つであり、労働者とのトラブルを防ぐためにも適切な賃金の支給を行うことが必要です。
賃金の控除に関して、例外的に労使協定を締結していない場合であっても、労働者の同意を得て賃金と会社が労働者に対して有する債権を相殺することが認められたケースもありますが、A3で説明したとおり、当該合意は労働者の自由な意志に基づく合意である必要がある等一定の要件を満たす必要がありますので、賃金控除についてお困りの際にはご相談ください。

【判例紹介~社会福祉法人秀峰会事件(東京高判令和5年8月31日)~】
特別養護老人ホームの運営などを行う法人で、理学療法士の資格を有し、職種や勤務地の限定のない無期雇用契約を締結していたXについて、訪問介護リハビリテーション業務から法人本部で新規設立した産業理学療法部門への配置転換(配転)をしたことの有効性が争われました。
一審横浜地裁は配転無効としましたが、控訴審(東京高裁)は配転有効とし法人の主張を認めました。
判旨は、Xが人事評価上、業績評価の「仕事量」や能力評価の「チームワークとコミュニケーション」といった事項が最低評価だったために労働力の適正配置や業務運営の円滑化など企業の合理的運営に寄与する点が認められるとして配転命令の業務上の必要性を肯定しました。
また、Xが配転により理学療法士としての技術が劣化するおそれがあるなどと主張したのに対し、判旨はあくまでXの主観的な不利益の域を出ず、
労働者が通常甘受すべき程度を著しく超える不利益とはいえないとしました。
                                               以上

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