判例・事例

テレワークの導入及び実施について(1) ~テレワークガイドライン~

2021年5月14日 その他


令和3年3月25日、「テレワークのための適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン」
(以下「テレワークガイドライン」といいます。)が改定されました。
今回は、テレワークガイドラインの内容についてポイントを絞ってご紹介し、次回はテレワークの導入及び実施において実務上問題になり得る点につきご紹介いたします。

第1 テレワークガイドラインとは

・情報通信技術を利用して行う事業外勤務(以下「テレワーク」といいます。)を導入することによって…
①労働者➡オフィスでの勤務に比べて、働く時間や場所を柔軟に活用することが可能となり、労働者にとって仕事と生活の調和を図ることが可能となる。
②使用者➡業務効率化による生産性の向上、育児や介護等を理由とした離職の防止、遠隔地の優秀な人材の確保、オフィスの削減等のメリットがある。

・テレワークは、ウィズコロナ・ポストコロナの「新たな日常」、「新しい生活様式」に対応した働き方である。

・テレワークガイドラインは、使用者が適切に労務管理を行い、労働者が安心して働くことができる良質なテレワークを推進するため、テレワークの導入及び実施に当たり、労務管理を中心に、労使双方にとって留意すべき点等を明らかにしたものである。

第2 対象業務・対象者等

1 対象業務
一般にテレワークを実施することが難しいと考えられる業種・職種であっても、個別の業務によっては実施できる場合がある。仕事内容の本質的な見直しを行うことが有用であり、管理者の意識を変えることや、業務遂行の方法の見直しを検討することが望ましい。

2 対象者
テレワークを実施するに当たっては、労働者本人の納得の上で対応する必要がある。
対象者の選定に当たり、正規雇用労働者、非正規雇用労働者といった雇用形態の違いのみを理由として対象者から除外することのないよう留意する必要がある。

※【就業規則規定例】(参考:テレワークモデル就業規則~作成の手引き~)
「第●条(在宅勤務の対象者:全員を対象とする規定例)
1 在宅勤務の対象者は、就業規則●条に規定する従業員であって次の各号の条件を全て満たした者とする。
(1)在宅勤務を希望する者
(2)自宅の執務環境、セキュリティ環境、家族の理解のいずれも適正と認められる者
2 在宅勤務を希望する者は、所定の許可申請書に必要事項を記入の上、1週間前までに所属長から許可を受けなければならない。
3 会社は、業務上その他の事由により、前項による在宅勤務の許可を取り消すことがある。
4 第2項により在宅勤務の許可を受けた者が在宅勤務を行う場合は、前日までに所属長へ利用を届出ること。」

第3 費用負担

・労働者に情報通信機器、作業用品その他を負担させる定めをする場合には、当該事項について就業規則に規定しなければならない(労働基準法第89条第5号)。

※【就業規則規定例】(参考:テレワークモデル就業規則~作成の手引き~)
「第●条(費用の負担)
1 会社が貸与する情報通信機器を利用する場合の通信費は会社負担とする。
2 在宅勤務に伴って発生する水道光熱費は在宅勤務者の負担とする。
3 業務に必要な郵送費、事務用品費、消耗品費その他会社が認めた費用は会社負担とする。
4 その他費用については在宅勤務者の負担とする。」

・実際の費用のうち業務に要した実費の金額を在宅勤務の実態(勤務時間等)を踏まえて合理的・客観的に計算し、支給することも考えられる。その際、在宅勤務に通常必要な費用について、その費用の実費相当額を清算する方法により、企業が従業員に対して支給する一定の金銭については、従業員に対する給与として課税する必要はありません。
しかし、企業が従業員に在宅勤務手当(従業員が在宅勤務に通常必要な費用として使用しなかった場合でも、その金銭を企業に返還する必要がないもの(例えば、企業が従業員に対して毎月5,000円を渡切りで支給するもの))を支給した場合は、従業員に対する給与として課税する必要があります。(参考:在宅勤務に係る費用負担に関するFAQ(源泉所得税関係))

※【就業規則規定例】(参考:テレワークモデル就業規則~作成の手引き~)
「第●条(在宅勤務手当)
在宅勤務者が負担する自宅の水道光熱費及び通信費用(ただし、資料送付に要する郵便代は除く。)のうち業務負担分として毎月●●円を支給する。」

第4 労働時間の把握
労働時間の把握については、次の方法によることが考えられる(参考:労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン)。なお、テレワークの場合においても、使用者は、時間外・休日労働をさせる場合には、36協定の締結、届出や割増賃金の支払、深夜に労働させる場合には深夜労働に係る割増賃金の支払が必要となる。

1 客観的な記録による把握
・パソコンの使用時間の記録等の客観的な記録を基礎として、始業及び終業の時刻を確認する。
・労働者がテレワークに使用する情報通信機器の使用時間の記録等。
・使用者が労働者の入退場の記録を把握することができるサテライトオフィスにおいてテレワークを行う場合には、サテライトオフィスへの入退場の記録等。

2 労働者の自己申告による把握
労働者の自己申告により労働時間を把握する場合(例えば1日の終業時に、始業時刻及び終業時刻をメール等にて報告させる)は、以下の点に留意する。
①労働者に対して労働時間の実態を記録し、適正に自己申告を行うことなどについて十分な説明を行うことや、実際に労働時間を管理する者に対して、自己申告制の適正な運用等について十分に説明を行うこと。
②労働者からの自己申告による労働時間が実際の労働時間と合致しているか否かについて、パソコンの使用状況など客観的な事実と、自己申告された始業・終業時刻との間に著しい乖離があることを把握した場合(例えば、申告された時間以外の時間にメールが送信されている、長時間パソコンが起動していた記録がある等)は、所要の労働時間の補正をすること。
③自己申告できる時間外労働の時間数に上限を設けるなど、労働者による労働時間の適正な申告を阻害する措置を講じてはならないこと。

第5 さいごに
ウィズコロナ・ポストコロナの「新たな日常」、「新しい生活様式」に対応するために、従来の生活から大きく変化する中で、様々な問題が生じるかと存じます。当事務所では、オフィスやご自宅からの相談が可能となるオンライン相談を受け付けておりますので、是非ご相談ください。詳細は、当事務所HPの「オンライン法律相談のご案内」をご確認ください。
次回は、テレワークの導入及び実施にあたって実務上問題となりうる点(中抜け、事業場外みなし労働時間制等労働時間の柔軟な取扱い、費用負担等に関する課税関係等)についてご紹介します。
                                                以上

PAGE TOP