判例・事例

更新が一度にもかかわらず、更新に対する合理的期待?定年後再雇用と有期労働契約の更新に対する合理的期待について(令和2年5月22日東京地裁判決:労働判例1228号54頁)

2021年4月20日 解雇に関する事例・判例


1 はじめに
今回は、裁判例(令和2年5月22日東京地裁判決:労働判例1228号54頁)を通して、定年後再雇用の場合に更新に対する合理的期待(労働契約法19条第2号)がどのようにして認められるのかを確認するとともに、実務上の留意点について考えます。

2 事案の概要
タクシー運転手として勤務し,67歳で定年退職した後は、有期の嘱託雇用契約を結んで稼働していた原告が、在職中に起こした交通事故の不申告を理由に二度目の更新の際に雇止めをされたことに対して、雇止めは無効であると主張した。

3 判決の概要
・被告では、タクシー運転手が定年である67歳に達した後も,嘱託雇用契約を締結して雇用を継続してきたこと
・タクシー運転手のうち,70歳以上の運転手は16パーセントに上ること
・原告は、昭和57年に入社後からタクシー運転手として勤務し、定年退職後の嘱託雇用契約についても契約書や同意書等の書面の作成がないまま、嘱託雇用契約を一度更新したこと
等から、69歳に達した原告も、嘱託雇用契約が更新され、定年前と同様の勤務を行うタクシー運転手としての雇用が継続すると期待することについて、合理的な理由を肯定した。そのうえで、雇止めの可否については、事故が重大ではなかったこと、本人が反省していること、これまでの勤務成績が良好であったことから、無効と判断した。

4 実務上の留意点
有期労働契約は契約期間が満了すれば契約関係が終了するというのが原則ですが、更新に対する合理的な期待が認められる場合は、雇止めが有効となるには、客観的な合理性と社会通念上の相当性が必要とされています。更新に対する合理的な期待が認められるかどうかは、主に、更新の回数や期間、担当業務の恒常性等から判断されます。
本判決では、更新が一度であるにもかかわらず、更新に対する合理的期待が認められた点が特徴的でしたが、定年後再雇用で行っていた業務が季節的なものではなく恒常的であったこと、タクシー業務という定年退職前と同様の業務であったこと、他の従業員の更新状況や、高齢でも更新がされているといった客観的な状況から更新への期待の合理性が認められたものです。
定年後再雇用の場合、他の従業員の更新状況から、本人の更新回数が少ない場合でも更新への期待の合理性を認める裁判例は他にも存在します。更新の手続きを口頭だけでは済まさず、面談及び書面の取り交わしは行う、更新への期待について誤解を生むような発言は避けることで無用な期待を生じさせないようにすることが重要です。また制度の運用の在り方から更新への期待の合理性が肯定されたことを踏まえれば、必要に応じて、人員計画と定年後再雇用の運用の在り方を見直すことも検討課題となるでしょう。
なお、高年齢者雇用安定法により、65歳までの継続雇用制度を導入している場合、労使協定が存在しない限り、解雇事由等がある場合を除いては基本的には継続雇用をしなければならないとされていますので、この場合、65歳までについては、更新回数にかかわらず、更新への合理的期待が継続雇用制度を背景に、より認められる方向となると予想されます。

以上

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