判例・事例

【コロナ禍】有期契約期間途中の整理解雇が無効とされた裁判例

2021年10月1日 解雇に関する事例・判例


今回は、新型コロナの影響により債務超過が膨らんだことを受け、契約期間途中で有期労働者を整理解雇したところ、当該整理解雇が無効と判断された裁判例をご紹介したいと思います。

1 事案の概要
タクシー乗務員であるXら4名(いずれも本件支部の組合員)が、Y社(タクシー会社)に対し、Y社が令和2年4月30日付でした整理解雇は無効であるとして、労働契約上の地位保全及び賃金の仮払いを求めた事案。
なお、コロナ前の直近の会計年度(平成30年5月1日から平成31年4月30日)においてもY社は貸借対照表上は約774万円の債務超過であった。

2 裁判所の判断(概要)
(1)判断の仕方
・本件解雇は有期雇用契約の期間満了前の解雇であるから「やむを得ない事由」(労働契約法17条1項)が必要。
・やむを得ない事由の判断に当たっては、①人員削減の必要性、②解雇回避措置の相当性、③人員選択の合理性、④手続の相当性の各要素を総合的に考慮して判断すべき。

(2)人員削減の必要性
・令和2年3月頃から新型コロナによるタクシー利用客の減少による売上の減少が始まり、令和2年4月は利用客が著しく減少した結果、売上が激減した
・令和2年4月:約1415万円もの支出超過・総額約3133万円もの債務超過
・新型コロナの影響によるタクシー利用客の減少がいつまで続くのか不明確な状況であった
⇒本件解雇時において、Y社に人員削減の必要性があること及びその必要性が相応に緊急かつ高度のものであったことは疎明がある。しかし、
・Y社の単月当たりの収支は大幅に改善の余地があった
(➀給与は従業員を休業させることによって6割の休業手当の支出にとどめることが可能、しかも雇用調整助成金の申請をすればその大半が補填されることがほぼ確実、②退職金は恒常的に発生するものではない、③ 燃料費、修繕費、保険料等は、臨時休車措置により免れることができた等。
・Y社の負担する債務(合計約7234万円)につき、B(Y社の初代代表取締役、現代表者に代わって団体交渉に出席するなど経営に密接に関与)及びa社(Bが代表者)に対する負債が2900万円以上を占めている→上記関係性からするとB及びa社に対する債務は即時全額の支払の必要があるとは解されず、Y社の債務超過の程度は額面ほど大きくはないものといえる。
・Y社はBからさらに融資を受けることが可能であった+当面の資金繰りについては金融機関から融資を受ける余地も十分にあったものと考えられる。
・Y社が交付した本件解雇通知の記載(「借金が…いつまで増えるのかを解らないまま増やし続けられない」等)→少なくとも本件解雇をしなければ直ちに倒産に至るとの見通しであったとは考えられない。
⇒これらの事情を総合すると、Y社の人員削減の必要性については、直ちに整理解雇を行わなければ倒産が必至であるほどに緊急かつ高度の必要性であったことの疎明があるとはいえない。

(3)解雇回避措置の相当性⇒相当に低い
・Y社は、令和2年4月17日以降、それまで概ね16~10人程度稼働していた従業員のうち4人程度を除いて休業させ、稼働する乗務員に残業や夜勤を禁止するなどして、賃金や残業代、深夜割増手当の削減をし、取引先に対し値引き交渉を行った。
・しかし、本件解雇に先立ち、雇用調整助成金の申請や臨時休車措置の活用はしていない。
・厚生労働省等が、雇用調整助成金を利用した雇用の確保を推奨していたこと、東北運輸局が臨時休車措置の利用を推奨していたこと、Y社自身が、令和2年4月20日から同月27日までの間、雇用調整助成金の利用を検討する旨の説明をXらや他の従業員にしていたことに照らすと、Y社は、本件解雇に先立ち、これらの措置を利用することが強く要請されていたというべき。

(4)人員選択の合理性⇒低い
Y社は、
ⅰ夜勤のみしか乗車できない者、
ⅱ営業所の地元の○○地区の営業に慣れていない者、
ⅲ顧客からのクレームが多い者
を整理解雇の際の人員選択の基準とした旨を主張するが、Xらがⅰ~ⅲに該当することの疎明があるとはいえない。

(5)手続の相当性⇒低い
・本件解雇に先立つ事前協議:Y社は、令和2年4月20日の団体交渉において、やむを得ない場合には人員調整に踏み切る旨の説明をしたが、同月末の営業成績の結果次第で採りうる選択肢の一つとして整理解雇を提示したに過ぎないというべき→これをもって本件解雇に先立って十分な協議がなされたとはいえない。
・本件解雇に際しての説明:Y社は、同月30日の団体交渉において本件解雇通知を交付して整理解雇をしているが、その記載内容は、政権批判や乗務員の新型コロナ感染防止等、整理解雇との関連性に欠ける記載が多く、これをもって整理解雇に際して十分な説明をしたとはいえない。Y社は、団体交渉の席上ではある程度の説明をしているが、口頭説明では十分とはいえないし、団体交渉に出席していないX2~X4に説明をしたことにはならない。

(6)結論
これらの事情、特に雇用調整助成金の利用が可能であったにもかかわらずこれを利用していないという解雇回避措置の相当性が相当に低いことに加え、本件解雇が有期労働契約の契約期間中の整理解雇であることを総合的に考慮すると、本件解雇は労働契約法17条1項のやむを得ない事由を欠いて無効である。

3 コメント

本判決は、特に

✓ 雇用調整助成金の利用が可能であったにもかかわらずこれを利用していないという解雇回避措置の相当性の低さ
✓ 本件解雇が有期労働契約の契約期間中の整理解雇であること

の2点を重視している。

有期契約期間途中の解雇は法律上「やむを得ない事由」が必要とされており、一般に(会社側に厳しい)正社員の解雇よりもさらにハードルが上がる点に留意が必要である。

また、本決定の挙げる4つの判断要素(①人員削減の必要性、②解雇回避措置の相当性、③人員選択の合理性、④手続の相当性)自体は正社員の整理解雇の場合も同様であるところ、雇用調整助成金を利用していないという解雇回避措置の相当性の低さを総合考慮において重視していることは注目に値する(ただし、本決定は保全段階のものであり、本訴等においては異なる判断が示される可能性。また本件はY社自身が雇用調整助成金の利用を検討する旨の説明をしていた事案であり、このような事情がない場合にも同程度重視できるかは議論の余地あり)。
                                    以上
                                            

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