判例・事例

判例紹介~再雇用の合意の解除が無効と判断された裁判例~

2022年11月7日 解雇に関する事例・判例


今回は、定年後再雇用の合意があった従業員が、懲戒処分を受けたことを理由に当該合意が解除され、当該従業員が再雇用されなかった事案において、当該合意の解除が無効と判断された裁判例(令和4年7月20日富山地裁判決)をご紹介いたします。

1 事案の概要
Yと雇用契約を締結して定年まで勤務してきたXが、Yとの間で、定年翌日を始期とする嘱託雇用契約を締結していたにも関わらず(以下「本件合意」といいます。)、Yから、Xが譴責の懲戒処分を受けたことが、本件合意に定める本件合意の破棄条項の「就業規則の定めに抵触した場合」に該当すること(以下「本件就業規則抵触条項」といいます。)を理由に、上記始期付き嘱託雇用契約を解除する旨の通知を受け、定年後の再雇用を拒否された。Xは、このような合意の解除は、客観的に合理的な理由及び相当性に欠け、権利の濫用に当たり無効であると主張し、雇用契約上の地位確認等を求めた事案。

2 本判決における高年法ポイント
65歳までの雇用確保措置(高年齢者雇用安定法(以下「高年法」といいます。)第9条)
定年を65歳未満に定めている事業主は、以下のいずれかの措置を講じなければなりません。

①65歳までの定年引上げ
②定年制の廃止
③65歳までの継続雇用制度(再雇用制度・勤務延長制度)の導入

👉③の継続雇用制度の適用者は解雇事由に相当する事由のない限り原則として希望者全員となります。     
平成24年改正以前には、労使協定により採用基準を決定することができ、本件においても採用基準を定めていました。そして、就業規則において、この労使協定の適用の基準年齢が定められ、この基準年齢までは、労使協定を適用せずに、この年齢まで再雇用するとしていました。

3 裁判所の判断

(1)本件就業規則抵触条項について
ア 高年法9条2項の趣旨
「平成24年改正前の高年法9条2項においては、労使協定により、継続雇用制度の対象者を限定する基準を定めることが認められていたが、同改正により同項が削除され、事業主には、同改正附則3項の経過措置に定められた年齢の者を対象とする場合を除き、継続雇用を希望する定年到達者全員を65歳まで継続雇用することが義務付けられたのであり、その趣旨は、老齢厚生年金の受給開始年齢までの収入を確保することにあると解される。」
「そして、『高年齢者雇用確保措置の実施及び運用に関する指針』の内容をも踏まえると、…就業規則に定める解雇事由又は退職事由(年齢に係るものを除く。)に該当する場合に限り、例外的に継続雇用しないことができるが、労使協定又は就業規則において、これと異なる基準を設けることは、平成24年改正後の高年法の趣旨を没却するものとして、許されないと解するのが相当である。」

イ Yにおける継続雇用制度の解釈
「以上に検討したところによれば、被告における継続雇用制度は、平成24年改正の趣旨を踏まえ、就業規則…に定める基準年齢に達するまでは、本件労使協定に定める基準を適用することなく、解雇事由又は退職事由に該当する事由がない限り再雇用し、上記基準年齢に達した後は、本件労使協定に定める基準を満たす者に限って65歳まで再雇用する旨定めるものと解釈すべきである。」
👉「原告は、定年に達した…時点において、60歳であり、就業規則…の基準年齢には達していなかったから、同月21日以降も被告に再雇用されるために、本件労使協定に定める基準の適用はなく、解雇事由又は退職事由に該当する事由がないと認められる必要があったにすぎないと解すべきである。そうすると、本件就業規則抵触条項についても、解雇事由又は退職事由に該当するような就業規則違反があった場合に限定して、本件合意を解除し、再雇用の可否や雇用条件を再検討するという趣旨であると解釈すべきである。」

(2)本件合意の解除の有効性
✓ Xはコロナ禍において、少なくとも2日にわたり、自宅待機命令に反して外出し、やむを得ない事があったとも認められず、業命令違反が認められること。
✓ 従業員全員で利用するため一度に大量の持ち帰りを遠慮するようにとの注意文書が出されていたにも関わらず合計80ℓの除菌水を持ち帰った行為。

👉配慮を欠いていたとはいえるが、職場の秩序を乱したとか情状が悪質であるなどの就業規則に定める解雇事由に相当するほどの事情であるとはいえない。また、Xの人事評価の結果についても解雇事由や退職事由に相当するほど著しく不良であるとはいえない。
👉本件解除は無効である。

4 コメント
平成24年の高年法改正によって、雇用継続措置において解雇事由に相当する事由のない限り希望者全員を採用する制度としなければならなくなりました。本判決は、そのような改正前に会社で設けていた、就業規則抵触条項(「就業規則の定めに抵触した」場合に嘱託契約を破棄する条項)に該当する場合には、継続雇用の合意を解除するという仕組みについての有効性が問題となりましたが、上記のとおり、条項の意味を限定解釈しました。法改正によっては、それまでの会社の制度や仕組みに影響を及ぼすことがあります。法改正に応じた取組みにお困りの際はご相談ください。
                                               以上

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