判例・事例

判例紹介~業務縮小による雇止め~

2022年12月8日 解雇に関する事例・判例


今回は、有期雇用契約の更新において生じる雇止めについて、更新1回で雇止めをされた従業員が、地位確認等を求めた判例(那覇地裁令和4年3月23日判決)をご紹介します。

第1 事案
X(看護師)が、Y(学校法人)との間で有期雇用契約を締結し(以下「本件労働契約」といいます。)、1度の更新を経たものの、Yから雇用期間満了をもって雇止め(以下「本件雇止め」といいます。)をされたところ、本件雇止めは客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であるとは認められないなどと主張して、Yに対し、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認等を求めた事案。

第2 裁判所の判断~契約更新に対する合理的期待の有無~
(1)判断枠組み
「労働契約法19条2号所定の契約更新の期待に対する合理的理由の有無は、雇用の臨時性や常用性等の当該有期契約労働者が従事する業務の内容及び性質、有期労働契約が更新された回数や雇用の通算期間等を含む当該有期労働契約の契約更新に関する具体的経緯、契約書作成の有無や更新の際における契約内容の確認等の使用者による契約管理の状況、同種の有期契約労働者における契約更新の状況、雇用継続の期待をもたせる使用者の言動の有無等の事情を総合考慮して、判断すべきものと解される。」

(2)本件労働契約に係る雇用の性質についての検討
ア 雇用の臨時性・常用性→本件労働契約でXに予定された業務は、臨時的なものではなく常用性を有するものであるというべき。

イ 本件労働契約が有期雇用である必然性
「…Yでは原則として任期制職員が採用されているものである。そして、このことはYの財源が国費による補助金に依存していることに伴う人事上の制約に基づくものとして、やむを得ない側面があるものといえる。また、本件労働契約が看護師としての一定の経験を有する者という特定のスキルの所持者を対象とするものであり、その賃金が…Xの経験・スキルに相応する高額のものといえることからすると、本件労働契約は、その業務が常用性を有するものであるとしても、Yが雇用形態として有期雇用を選択したことに合理性を欠くとはいえない。」
ウ クリニックの縮小の影響
「Yのクリニックは、平成29年7月末日付けで医師不在のために閉院となり、その後、令和元年6月3日には再開したものの、再開後は予約制とされ、開院時間についても、従前は週16時間であったものが週10時間に変更された…。そして、XはYのクリニックの職員として雇用されたものであるから、雇用開始後にクリニックの運営状況が縮小方向に変化したことは、Xの雇用を継続しないことの合理的な理由となり得るものといえる。」

(3)契約更新に関する具体的経緯等についての検討
ア 本件労働契約の更新回数・通算期間
・本件労働契約においては、1回の更新がされたのみ。
・労働期間も全体として2年5か月にとどまり、更新後の期間はわずか5か月とされた。
👉多数回にわたる更新や長期間の雇用継続があったとはいえず、Xにおいて本件労働契約の更新に対する合理的な期待が生ずるものとはいえない。

イ 契約更新に係る定めやその管理状況
・募集要項:「常勤、3か月の試用期間を含む2年間の任期制雇用(更新可)」と記載。
・労働条件通知書:「平成28年11月1日から平成30年10月31日までの2年間、更新の可能性:あり」
・雇用契約書:「本契約は、契約期間満了時の業務量およびOISTの財務状況、その他を判断し、原告に対して契約更新を提示し、原告の承諾を以って、更新が成立する」旨の定め。
👉「本件労働契約に係る定め等からすれば、客観的にみて、Yには契約更新をXに提示するかどうかについての裁量があると考えられるから、2年間の期間満了時の取扱いとして、更新の可能性があるという以上に、当然に更新が予定されていたと解釈することは困難である。」また、更新の手続についても相当の管理がされていた。

ウ X以外の任期制職員に係る契約更新の状況→任期制職員は雇用継続を希望する限り当然に更新されるとの慣例が成立していたとは認められない。

エ 雇用継続の期待をもたせるYの言動の有無→Xが雇用継続に対する期待を抱いたとしても、合理的な理由に基づくものとはいえないと判断。

オ 総合考慮
「上記の諸点を総合すると、本件労働契約に係る雇用は常用性を有するものとはいえるものの、有期雇用契約とされたことについて合理的な根拠があり、また、雇用契約や業務内容の性質から当然に更新されることが前提となっているものとはいえず、さらに本件労働契約の更新回数や通算期間、本件労働契約に係る定め、Y側の説明等に照らしても、Xに契約更新について合理的期待を生じさせるものとはいえない。」

第3 コメント
有期の雇用契約であっても、契約継続(更新)につき合理的な期待が認められるとされた場合には、雇止め(更新拒否)をするには客観的に合理的で社会通念上相当な理由が必要となります(労働契約法第19条2号)。本判決では、様々な判断要素を総合考慮して合理的な期待はないとされましたが、事案によって事情が異なりますので、お困りの際にはご相談ください。
                                               以上

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