判例・事例

未払残業代請求に影響大!賃金の時効が5年間(当分の間3年間)に延長、さらに付加金の請求期間も同様に延長されます

2020年2月4日 賃金に関する事例・判例


はじめに

昨年の9月にご紹介した「賃金等請求権の消滅時効」に関して、重要な進展がありましたので、ご紹介したいと思います。

1 労政審が出した結論とその後の流れ

(1)労働政策審議会で議論がなされた結果、昨年12月27日付で以下の内容の建議がなされました。
ア 変えるもの
・賃金請求権の消滅時効期間は5年とする。ただし、当分の間(※)、現行の労働者名簿や賃金台帳等の記録の保存期間に合わせて3年間とする。
・5年・3年は、権利を行使することができる時(=本来の支払日)からカウントする。
・労働者名簿や賃金台帳等の記録の保存期間も、原則5年、当分の間は3年とすべき。
・付加金(割増賃金の未払い等一定の違反がある場合に、裁判所が、使用者に対し、〔未払金とは別に〕未払金と同額の範囲で労働者への支払いを命じることができる)の請求期間も、原則5年、当分の間は3年とすべき。
イ 変えないもの
・退職手当:現行の消滅時効期間(5年)を維持
・年次有給休暇請求権、災害補償請求権:現行の消滅時効期間(2年)を維持 等
ウ いつから変えるのか?
・施行期日は改正民法の施行日と同じ本年(令和2年)4月1日とすべき。
・(改正民法とは異なり、雇用契約締結の時期を問わず)施行期日以後に賃金の支払期日が到来した賃金請求権の消滅時効期間について改正法を適用する。付加金の請求期間についても同様の取扱いとすべき。

(2)その後、上記建議を受け、「労働基準法の一部を改正する法律案要綱」が作成され、本年1月10日に労働政策審議会に諮問が行われ、「おおむね妥当」との答申がなされました。今通常国会に同改正法が提出され、成立する見込みです。

2 改正による実務への影響
例えば、賃金につき、毎月15日締め、当月25日払いの会社において、仮に未払残業代が発生していた場合、

・本年3月25日支払分までは、本来の支払日から2年以内に請求しなければ原則時効により消滅していたのに対し、本年4月25日支払分以降は、本来の支払日から3年以内に請求すればよくなる

ということで、後の未払残業代請求・訴訟において、消滅時効にかかっていない=請求される期間が増える分、支払わなければならない未払額が増えることが想定されます。また、訴訟の場合には、裁判所から支払いを命じられる付加金についてもそれと同じだけ増える可能性があります。現行の2年でも未払額・付加金が多額となる事案も多いことから、この改正が企業経営に与える影響は非常に大きいでしょう。
予防のため、労働時間管理に問題がある場合には早急に見直す必要があります。また、特に管理監督者や固定残業代等については、(会社は有効であると考えていても、一定の要件を欠いているために)裁判で管理監督者に当たらない/固定残業代は無効等と判断され、多額の未払残業代が認められているケースも多いことから、注意が必要です。従前から問題を感じられている場合や問題があるのかないのかよく分からないといった場合等は、この機会に一度ご相談いただければと思います。

(※)改正法の施行から5年経過後に検討を加え、必要があれば見直す。

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