判例・事例

判例紹介~請負元の安全配慮義務違反~

2022年10月11日 労働災害に関する事例・判例


今回は、派遣運転手(請負業者社員)に対する派遣元(請負業者)の安全配慮義務違反を認めた判例(セーフティ事件、令和4年4月27日横浜地裁判決)をご紹介いたします。

1 事案の概要
役員車等の運行・保守管理の請負等を業とするYに雇用され、勤務中に心筋梗塞を発症して死亡した亡Dの相続人であるXらが、Dの心筋梗塞の発症はYにおける長期間の時間外労働等が原因であり、安全配慮義務違反があるとして、Yに対し、債務不履行又は不法行為による損害賠償を求めた事案。

2 判決の概要
(1)平成13年12月12日付基発1063号「脳血管疾患及び虚血性心疾患(負傷に起因するものを除く。)の認定基準について」(以下「認定基準」といいます。)
 医師等がメンバーとなり、脳・心臓疾患が業務上の疾病として認定される基準に関して検討が行われ、その結果が報告書(「専門検討会報告書」)として取りまとめられました。その内容を踏まえて基発1063号の通達を発出し、認定基準が定められ、本件判例ではこの認定基準が参照されています。認定要件は以下のとおりになります。

認定要件:次のア、イ又はウの業務による明らかな過重負荷を受けたことにより発症した脳・心臓疾患は、業務上の疾病とする。
ア 発症直前から前日までの間において、発生状態を時間的及び場所的に明確にし得る異常な出来事(急激で著しい作業環境の変化等)に遭遇したこと。
イ 発症に近接した時期において、特に過重な業務に就労したこと。
ウ 発症前の長期間にわたって、著しい疲労の蓄積()をもたらす特に過重な業務に就労したこと。
※疲労の蓄積の最も重要な要因である労働時間について
①発症前1ヶ月間におおむね100時間を超える時間外労働が認められる場合、発症前2ヶ月ないし6ヶ月間にわたって、1ヶ月当たりおおむね80時間を超える時間外労働が認められる場合は、業務と発症の関連性は強いと判断され、
②発症前1ヶ月ないし6ヶ月間にわたって、⑴1ヶ月当たりおおむね45時間を超える時間外労働が認められない場合は業務と発症との関連性が弱く判断される。⑵1ヶ月あたりおおむね45時間を超えて時間外労働が長くなるほど、業務と発症との関連性が徐々に強まると判断される。

なお…令和3年9月14日付基発第0914第1号によって、以下のとおり脳・心臓疾患の労災認定基準が改正されています。
・長期間の過重業務にあたり、労働時間と労働時間以外の負荷要因を総合評価して労災認定することを明確化
・長期間の過重業務、短期間の過重業務の労働時間以外の負荷要因を見直し
・短時間の過重業務、異常な出来事の業務と発症との関連性が強いと判断できる場合を明確化
・対象疾病に「重篤な心不全」を追加

(2)Dの業務の過重性について
・Dが心筋梗塞を発症する前3ヶ月における時間外労働時間数の平均は月150時間超え
・発症6ヶ月間の平均も月147時間を超える
・発症6ヶ月間、休日出勤が多く土日の両日を連続して休めることが月に1回程度
・平日に終業時間が午後10時を過ぎても翌日も勤務する日が相当数等…
➡認定基準の要件ウによると、著しい疲労の蓄積をもたらす特に過重な業務であったと認められる。

(3)業務と心筋梗塞発症との因果関係について
認定基準を踏まえて、「Dには、認定基準によって業務との関連性が強いとされる時間外労働時間を優に上回る時間外労働があったのであり、…Dの業務は、心筋梗塞発症の原因となったと推認される」と判断された。

(4)Yの安全配慮義務違反について
「Dの使用者であったYは、業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積してDが心身の健康を損なうことがないように、労働時間を始めとする業務を適切に管理し、負担を軽減する措置を採るべき義務を負っていたといえる」とし、上記(2)のとおり、Dは業務において著しい疲労の蓄積をもたらす過重な業務に就労していたのであり、Yは安全配慮義務違反が認められると判断された。

3 コメント
本判決においては、Yは、Dの作成した日報等を確認すれば、Dが長時間の時間外労働及び休日出勤等による疲労が蓄積して健康を損なう恐れがある状況にあったことは容易に知り得、適切な労務管理がYにおいてなされていたとは言い難いと判断されております。本件もそうですが、業務請負業で労働者を注文業者のもとで勤務させる場合には、注文業者が直接指揮命令する派遣法違反の問題が生じやすいと同時に、時間管理が曖昧になることがあります。適切な労務管理を行うことは、労働者の健康や労務環境を守るだけではなく、会社のトラブルを予防するためでもあります。労務管理についてご不明な点がございましたら是非ご相談ください。
                                               以上

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