判例・事例

職場ストレスと労災認定~その2~裁判例

2012年4月28日 労働災害に関する事例・判例


 精神障害が「業務上」の疾病であるとはいえないと判断され、保険給付の不支給決定がなされた場合には、申請者は、審査請求・再審査請求をすることができます。それでも不支給決定が変更されない場合には、裁判所に対し、不支給決定の取消訴訟等を提起することになります。

 そこで、今度は、裁判例における判断基準等について、説明していきたいと思います。

1 判断基準

 まず、前提として、精神障害が業務に起因して生じたこと(業務起因性)の立証責任は保険給付を請求する者にあるとされています。

 この業務起因性が認められるためには、業務と精神障害との間に相当因果関係が認められることが必要であり、

 相当因果関係を認めるためには、精神障害の発病という結果が、業務に内在しまたは通常随伴する危険が現実化したものであると評価し得ることが必要であるとされています。

 精神障害の発病については、先にご説明した「ストレス-脆弱性理論」が広く受け入れられていますから、相当因果関係が認められるためには、ストレスと個人の側の対応力を総合考慮し、業務によるストレスが、社会通念上、精神障害を発病させる程度に過重であるといえる場合に、業務に内在しまたは通常随伴する危険が現実化したものとして、精神障害の業務起因性を肯定するのが相当としています。

2 11年指針・認定基準に対する裁判所のスタンス

 判例は、認定基準が定められる前に適用されていた11年指針については、

 一定の合理性があることは認められるとしつつ、

 「あてはめや評価に当たっては幅のある判断を加えて行うものであるところ、当該労働者がおかれた具体的な立場や状況などを十分斟酌して適正に心理的負荷の強度を評価するに足るだけの明確な基準となっているとするには、いまだ十分とはいえず、…訴訟においてこの基準(11年指針)のみをもって判断するのが相当であるとまではいえない」(豊田労基署長(トヨタ自動車)事件など)との立場をとっていました。

 認定基準は、11年指針には記載されていなかった具体例や具体的数値等を記載していることから、11年指針よりは明確性が増しているといえますが、認定基準が出された平成23年12月26日からまだ日が浅いことから、認定基準に対する裁判所のスタンスを示した裁判例は、残念ながら今のところ見当たりません。

 今後の裁判で、認定基準に対し、裁判所がどのようなスタンスを示すのか、気になるところです。

3 最近の裁判例の傾向

 最近の裁判例においては、「職場におけるストレス要因」と「職場以外のストレス要因」とを比較的単純に比べて、職場以外の要因があまりなければ、それは職場における要因によるものであるという形で認定していく傾向がかなり強まってきているという指摘があります。

 確かに、相当因果関係を認めた裁判例では、結論的には業務による強いストレスを認定し、業務以外の要因によるストレスについては強度なものではなかった、個人の側の要因も、たとえうつ病に親和的な性格傾向があったとしても通常人の正常な範囲を逸脱したものではなかったとしているものが多いということができるでしょう。

 ただし、出向(単身赴任)や業務(機械の保全業務)それ自体のストレスは一般的な水準からして特に過重ではなかったとしつつ、個々の出来事のストレスではなく、それらを総合的に判断して精神障害を発症させるおそれのある強度のものであるかどうか判断すべきとして相当因果関係を認めたもの(八女労基署長(九州カネライト)事件)などもあることから、今後の裁判の動向が注目されます。

PAGE TOP