判例・事例

副業・兼業の促進に関するガイドライン(3)~「管理モデル」~

2020年12月10日 その他


今回も、前記事に引き続き、令和2年9月1日に改定された厚生労働省の「副業・兼業の促進に関するガイドライン」(以下、「ガイドライン」といいます。)のポイントをご紹介いたします。
※副業・兼業の促進に関するガイドラインの改定
※副業・兼業の促進に関するガイドライン(2)~労働時間の通算~

1 これまでのおさらい
・副業・兼業をしている労働者については、労基法38条1項により、自社における労働時間と、他社における労働時間を通算する必要があります。
・具体的な通算方法は、前号でご紹介したとおり、特に所定時間外労働が発生する場合は、複雑です。→労働時間の申告等や通算管理において、労使双方に手続上の負担が伴うことが想定されます。

2 簡便な労働時間管理の方法~「管理モデル」~
そこで、労使双方の手続上の負担を軽減し、労基法に定める最低労働条件が遵守されやすくなる簡便な労働時間管理の方法(「管理モデル」)が提唱されています。

(1)管理モデルの枠組み
①副業・兼業の開始前に、

●A社(労働者と先に労働契約を締結した側)における法定外労働時間
          
●B社(労働者と後から労働契約を締結した側)における労働時間(所定労働時間も含む)

単月100時間未満、複数月平均80時間以内

となる範囲内において、
A社・B社における労働時間の上限をそれぞれ設定し、A社・B社はそれぞれその範囲内で労働させることとするもので、

②A社はA社での法定外労働時間の労働について、B社はB社での労働時間(所定労働時間も含む)の労働全部について、それぞれ自社(の当該事業場)における36協定の延長時間の範囲内とし、割増賃金を支払うことで、
③A社・B社は、副業・兼業の開始後においては、それぞれあらかじめ設定した労働時間の範囲内で労働させる限り、他社における実労働時間の把握を要することなく労基法を遵守することが可能となる

というものです。

(2)導入手順
 一般的には、副業・兼業を行おうとする労働者に対してA社が管理モデルにより副業・兼業を行うことを求め、労働者及び労働者を通じてB社がこれに応じることによって導入されることが想定されるとされています。「労働者及び…B社がこれに応じる」ですので、三者間でのコンセンサスを想定していると思われます。

3.管理モデルの導入にかかる留意点
(1)管理モデル導入のメリット・デメリット
【メリット】
あらかじめ設定した労働時間の範囲内で労働させる限り、他社における実労働時間を把握しなくてよい。

【デメリット】
B社は、自社での労働時間全部(所定労働時間についても)について割増賃金を支払わなければならない→特にA社の所定労働時間が短い場合、管理モデルを導入しなければ割増賃金が不要であった時間についても割増賃金が必要となることが想定される。

(2)そのため、特に自社がB社(労働者と後から労働契約を締結した側)の立場である場合は、管理モデルの導入に応じるか否か慎重な検討が必要です。
一般論としては、A社(労働者と先に労働契約を締結した側)の所定労働時間が1日8時間、週40時間である場合には、原則どおりの通算でもB社は自社の労働時間全部について割増賃金を支払わなければならないため、管理モデルを導入して手続上の負担を軽減するのがよいと思います。これに対し、例えばパートのかけもちやA社で短時間のアルバイト、B社で正社員といった場合のように、A社の所定労働時間が短い場合には、(短ければ短いほど)割増賃金の点のデメリットが大きくなるため、消極的にならざるを得ないように思います。

(3)逆に自社がA社の立場の場合には、B社のようなデメリットもなく、手続上の負担軽減を図ることができるため、管理モデルを導入したいと考えるのが自然です。
→今後、管理モデルによることを副業・兼業を認める条件とし、B社に対し、管理モデルの導入を求めてくるA社側の企業が増加することが想定されます。
そのため、B社の立場からは、募集・採用の段階から、応募者が既に他社で働いている場合には、管理モデルによることが副業・兼業の条件となっていないか確認し、条件となっている場合にはそのことを踏まえて採用するのか、採用する場合には、労働時間、賃金等の労働条件をどうするのかを検討する必要があると思います。

(4)3社以上のかけもちの場合も管理モデルの導入は可能とされています。この場合は、特に所定時間外労働が多く発生すると通算管理が非常に複雑になり、原則どおりの通算では事務方の対応が困難な場合も多いように思われますので、割増賃金の点を踏まえてもなお管理モデルの導入が有力な選択肢となるように思います。

(5)なお、管理モデルを導入した使用者が、あらかじめ設定した労働時間の範囲を逸脱して労働させたことによって、時間外労働の上限規制を超える等の労基法に抵触した状態が発生した場合には、当該逸脱して労働させた使用者が、労働時間通算に関する法違反を問われ得ることになりますのでご注意ください。

4.健康確保措置の実施対象者等
使用者は、労働者が副業・兼業をしているかにかかわらず、健康診断、長時間労働者に対する面接指導、ストレスチェックやこれらの結果に基づく事後措置等(以下「健康確保措置」といいます)を実施しなければならないところ、この健康確保措置の実施対象者の選定に当たって、他社における労働時間の通算をすることとはされていません(ただし、使用者の指示により当該副業・兼業を開始した場合は通算した労働時間に基づき健康確保措置を実施することが適当とされています)。
しかし、安全配慮義務との関係では、使用者が、副業・兼業を含む全体としての業務量・時間が過重であることを把握しながら、何らの配慮をしない場合には、安全配慮義務違反を問われる可能性があることには注意が必要です。必要な場合には、副業・兼業を禁止または制限することができるように就業規則を整備しておくことが望まれます。
なお、管理監督者等労働時間規制が適用されない労働者については労働時間の通算の対象からは外されているものの、安全配慮義務については別途問題となり得るため、留意する必要があります。ガイドラインでも、フリーランス等そもそも労基法が適用されない場合をも含めて、「これらの場合においても、過労等により業務に支障を来さないようにする観点から、その者からの申告等により就業時間を把握すること等を通じて、就業時間が長時間にならないよう配慮することが望ましい。」とされています。

5.さいごに
ガイドラインの内容はきちんと踏まえておく必要がありますので、悩まれた際はいつでもご相談いただければと思います。

                                  以 上

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